西国三十三所巡礼は、四国八十八ヶ所巡礼(四国遍路)と並んで最もよく知られた巡礼の道です。西国三十三所巡礼は、一説に奈良の長谷寺を開いた徳道上人によってはじめられ、その後、花山法皇の中興を経て広がっていったものと伝えられています。そもそも霊場が三十三所に定められたのは、『法華経(ほけきょう)』普門品(観音経)に説かれる、観音菩薩が三十三の姿をあらわして衆生を救済するという三十三身の教えに基づくと考えられます。それぞれの霊場は宗派も一様ではありませんが、いずれも観音菩薩を本尊として祀っており、三十三所の巡礼は、宗派を超えた観音の道ということができます。
西国三十三所巡礼は、当初主に僧侶の修行の一つとして行われたと考えられますが、霊場への信仰が浸透するにつれ民衆にも広がり、室町時代には巡路が確立し、庶民による参詣が行われるようになりました。江戸時代には旅や社寺詣での流行とも相俟って娯楽的な要素が加わり、多くの参詣者で賑わうようになります。そして、その人気は近年でも衰えず、四国遍路とともに現在も多くの人々に親しまれています。
ところで、本年は、西国三十三所巡礼の中興といわれる花山法皇の崩御より一千年の記念の年に当たります。本展覧会では、花山法皇の遺徳を偲ぶとともに、歴史ある各霊場に伝えられた宝物の数々を開陳し、三十三所の歴史と信仰の遺産、信仰に基づく美の世界を展示し、観音霊場に捧げられた人々の祈りの軌跡を描き出します。また広く観音信仰に関わる遺宝を会し、造形を通じて理解を深めていただきたいと思います。
この機会に、先人の貴重な遺産をたどりながら西国三十三所巡礼の歴史と信仰を知っていただき、併せて観音菩薩に託した先人の思いを感じていただければ幸いです。
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