液晶絵画/Still Motion 2008/05/07

大阪 国立国際美術館





 ビデオの技術は、視覚文化に大きな影響を与えてきました。1960年代に登場したビデオ・アートもその一つで、ナム・ジュン・パイクをはじめとするビデオ・アーティストたちは、映画とはまったく異なった映像の可能性に注目し、ビデオならではのさまざまな実験的作品を試みてきたのです。
 当初のビデオ・アートにはブラウン管のモニターが、1980年代以降には壁面に映像を投影するプロジェクターが用いられ、さらに近年では平面ディスプレー装置による作品が登場してきました。本展は、そうした技術的な革新とも密接に関係しながら展開してきたビデオ・アートが、いま新たに開きつつある一頁を、プロジェクターに加えて大画面の液晶ディスプレーによる作品によって紹介しようとするものです。
 この斬新なプロジェクトのタイトルとして、私たちはあえて“絵画”という伝統的なジャンルを指す言葉を持ち出しました。というのも、本展に出品されるアーティストたちの作品には、絵画と映像という、これまで明確に分かれていた二つの領域の境界を揺るがせ、さらにはジャンルの概念そのものを組み替える可能性があると考えているからです。



 今日、映像作品は絵画の展示とほぼ同じ条件のもとに上映することも可能となったように思われます。一般に絵画は静止したままの空間芸術であり、映像は動きのある時間芸術とされていますが、その違いを象徴的に保証してきた暗い劇場と明るいギャラリーの区別が絶対的なものではなくなりつつあるのです。それは単に絵画の精細な複製を映像で見るといったことに終わるものではありません。絵画に動きが介在し、映像に絵画と同質のイメージが立ち現れるような、時間芸術と空間芸術とが融合したような不思議な世界を、私たちは目の当たりにすることになるでしょう。
 写真や映画がそうであったように、技術の革新は、それ以前には予想もされなかった新たなアートの領域を誘発してきました。本展の会場では、単に最先端の装置の性能を生かすというだけではなく、従来の映像の概念そのものをはるかに越えた発想による表現が、鋭い感受性に恵まれたアーティストたちの手で繰り広げられるに違いありません。


机上のウサギの死骸やかごの中の果物盛りを完全に固定されたカメラで撮影、次第に色あせ、カビが生え、腐敗していくまでの時間遷移をじっと見る。描かれた人物とカメラで写された自分が同じカンバスの中に入り込む。少しずつ少しずつ変化する絵画。その他、ちょっと変わった経験ができる美術展。各作品に(上映)時間が表示してあることもこの展示の特色かも。




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