ここ近江(滋賀)では、古くから多彩なやきもの文化が育まれています。陶芸の森では近江のやきものに関する調査活動に取り組み、その成果を特別展で紹介してきました。本展では湖国を拠点に商品流通を展開し、自給自足の経済から近代経済への道を切り拓いた近江商人をテーマに、商家の暮らしに関わったやきものを紹介します。近江商人が行商人から豪商に成長してゆく近世には、磁器生産がはじまり、料理文化の発展とともに、人々の食卓に陶磁器が多用されるようになりました。人の出入りの多い近江の商家でも、“もてなしのうつわ”が数多く揃えられています。近世後期以降には高い教養を備えた商家が多く現れ、芸術家など多彩な人士との交友のなかで、独自の商人文化を築きました。芸術への関心も高く、作陶を
余技とした当主もいます。また、〈三方よし〉の精神のもと文化振興にも尽力し、郷里の陶磁資料の収集や研究への支援も行っています。
経済活動という点では、近江商人の成し遂げた流通革新は、やきものの普及と発展に与えた影響も少なくありません。生活用品、社交の道具、楽しみの愛翫品、商いの品など…、やきものは近江の商家の暮らしに幅広く活きづいてきました。本展での取り組みはまだ導入でしかありませんが、これを機にさまざまな情報が、新たに得られることを願います。 |