ティムバートン(Tim Burton)監督は映画界の奇才と呼ばれている。検索してみると、彼の作品はリアルタイムに殆ど映画館で観ていて、スティーブン・スピルバーグやジェームズ・キャメロンらと同様、やはり、その当時、話題になった作品ということが分かる。最近では「チャーリーとチョコレート工場」、「コープスブライド」、「ビッグ・フィッシュ」など非常に印象深い。今回は息の合ったジョニー・デップとまたおもしろい作品に取り組んだ。そして、なんと、ジョニー・デップが歌う「ミュージカル(というほどでもないが)仕立て」なのである。この「スウィーニー・トッド
フリート街の悪魔の理髪師」は日本も含め多くの配役で舞台化されてきた。ミュージカル舞台を映画としてリメイクした映画は、最近では「オペラ座の怪人」、「ヘアスプレー」など。ずばり、ティム・バートン独特の世界、おどろおどろしい独自の雰囲気をかもし出す映画は、かなりの確率で、この映画はティム・バートンだと言い当てる自信がある。サウンドなど、「バットマン」そのもので、大好きな乗りだ。シェークスピアみたいなすれ違いの悲劇は思わず身を乗り出す。トッドがあれほど悪徳判事を恨み、復讐に燃えるかを前半15分ぐらい増やしてでも強調できたらもっとおもしろくなったかも。しかし、かみそりを振り回して吹き飛ぶ血しぶきなど、心臓の弱い方はお気をつけて・・・・。 |
「チャーリーとチョコレート工場」の美男子、「パイレーツ・オブ・カリビアン」のキャプテンジャックなどで見せるジョニー・デップの新たな顔。 |
ジョニー・デップはやはり大した俳優だ。ソンドハイムの難しい曲を歌いこなしているだけではなく、復讐に凝り固まったスウィーニー・トッドの暗い情念が、歌となって噴出しているのだ。他の出演者もそうだが、彼らは決して歌手のようにきれいに歌っていない。歌声を響かせることより、キャラクターの感情表現を優先させている。このミュージカルではそれが正解。なにしろ、「この死体をどう始末する?」「私に任せて、パイにしてしまうわ」とか、「復讐する日まで、せいぜい(喉を切り裂く)訓練をしよう」なんて物騒な歌なんだから、朗々と歌い上げられても困ってしまう。 それにしてもよくもこれだけダークな映画にしたものだ。色彩を抜き取ったようなモノトーンの画面に死体を焼く真っ黒な煙がたちこめ、愚かなまでに陰気なスウィーニーが客の喉を切り裂き続ける。そのダークな画面に飛び散るのはもちろん真っ赤な血。喉を切ることで抑圧された彼の感情が爆発し、おびただしい量の血が降り注ぐのだ。ティム・バートンはこの感情の爆発=血しぶきをやりたかったんだろうね。R指定の心配もハリウッドの常識も吹っ飛ばして、やりたい放題スプラッター・ホラー・ミュージカルに徹している。その思いっきりの良さが、むしろ痛快だ。(森山京子)(eiga.com) |