映画「あなたへ」  2012/09/10




「こういう映画は苦手」と言っても、けっこう観ている。高倉健さんの映画は、1977年の「幸福の黄色いハンカチ」、1989年の「あ・うん」、1999年の「鉄道員(ぽっぽや)」、 2001年の「ホタル」、2005年の「単騎、千里を走る」などなど、結局ちゃんと映画館で観ている。殆どのストーリーが何かの目的で旅をするというシナリオだ。

今回の「あなたへ」は亡き妻の「自分の遺骨を故郷の海に散骨して欲しい」との遺言で、富山から長崎平戸までの旅。途中、京都、大阪、下関などあちこちで、癖のある人たちと会い、ほのぼのとしたエピソードが続く。


滋賀県もびわ湖大橋のあたりを走る場面が数秒出るが、兵庫ではあの竹田城跡の風景は美しい。城跡に健さんただ一人が立ち、カメラがググーッと引くと、雲海に浮かぶ天空の城。ひょっとしたら、黒澤明の「影武者」以来?

 
それにしても、健さん、81歳、顔はやっぱり間違いなく、おじいさんそのもの。手の甲のしわ、しみは隠せない。しかし、腰がピンとして、こんな81のじいさん、近所にいないわなあ。昔のヤクザ映画を知ってる者には人間の老いを自分にも照らしてちょっと深刻。「網走番外地」シリーズ、「日本侠客伝」シリーズ、「昭和残侠伝」シリーズ、「新幹線大爆破」、「八甲田山」、「南極物語」・・・


佐藤浩市のからむラスト近く、佐藤浩市がけっこう情けない役柄をやっているなと思ったら、なるほど、こういうことか・・・。
高齢夫婦がけっこう来ていて、座席の両側をジジババ夫婦にはさまれた。
まあ、永年のよりを戻すにはいいかも。映画館を出た時は少しは・・・。
うちなんか、「いっしょに行こう」と言ったら、イヤと言われ、それ以前の問題だ。


解説: 日本映画界屈指の名優・高倉健が、『鉄道員(ぽっぽや)』『ホタル』など数々の名作を送り出してきた降旗康男監督と20作目のタッグを組んだ人間ドラマ。妻の遺骨を散骨するため妻の故郷へ旅立った男が、道中で出会った人々との交流を経て妻の真意を知る姿を描く。『あ・うん』のプロデューサー市古聖智が遺(のこ)した原案を、降旗監督と脚本家の青島武が再構築。共演にはビートたけし、田中裕子、佐藤浩市、草なぎ剛、綾瀬はるかなど、ベテランから若手まで豪華な顔ぶれがそろう。

あらすじ: 北陸の刑務所で指導技官として勤務する倉島英二(高倉健)のところに、亡くなった妻・洋子(田中裕子)が生前にしたためた1通の手紙が届く。そこには故郷の海に散骨してほしいと書かれており、英二は洋子が生前には語らなかった真意を知るため、車で彼女の故郷・九州へと向かう。その道中で出会ったさまざまな人々と交流するうちに、妻との思い出が頭をよぎり……。

 スクリーンにその身ぶりが映し出されるだけで観客の目を釘付けする俳優を映画スターと呼ぶ。俳優・高倉健は齢80歳を過ぎた老優ながら、いまだ“スター”でいる数少ない俳優だ。彼に匹敵しうる存在は歳が1つ上のクリント・イーストウッドぐらい。ともに「昭和残侠伝」シリーズ(65〜72年、助監督は降旗康男)と「ダーティハリー」シリーズ(71〜88年)という代表作があり、主人公である渡世人の花田秀次郎と刑事のハリー・キャラハンはアウトローで、最後にはそれぞれに長ドスと拳銃マグナム44で悪を倒したアンチヒーローだった。現在までふたりとも現役俳優で、約半世紀にも及ぶフィルモグラフィーがあり、両者の顔には映画との格闘の歴史ともいうべき聖痕(シワ)が刻まれている。高倉健の205本目となるこの主演作は、健さん演じる刑務所の指導技官が、亡き妻が遺した一枚の絵手紙をきっかけに、富山から妻の故郷・長崎の平戸まで、手作りのキャンピングカーで旅に出るロードムービーだ。アレクサンダー・ペイン監督の「アバウト・シュミット」よろしく、妻に先立たれた主人公がキャンピングカーで旅をする物語だ。しかし、長年刑務官として独身を貫き、壮年になって結婚した彼には子どももなく、出会う家族もいない。それだけに、旅先での一期一会の出会いや心の触れあいがいっそう沁みる。最後のほうで健さんが東映任侠映画風にいう、いい“世話場”をするシーンがある。コンビ20本目となる降旗康男監督は、孤独だった主人公を救うかのように、慈しみに満ちた目線で健さんの横顔を映し出す。その聖痕の美しいこと。映画的美学は全般的に少々乏しいかもしれないが、この映画最大のスペクタクルは俳優・高倉健だ。スクリーンに帰って来た永遠のスターを、全編にわたってとことん見つめるべき映画なのである。(サトウムツオ)(映画.com)

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