珠玉の邦画「おくりびと」 2008/09/16

大津ユナイテッドシネマ



思いがけず、3日連続で映画の話になってしまったが、書かずにはいられない所感ばかりだ。
昨年、彦根の姉宅で義兄の通夜に立ち会った。葬儀社から派遣された若い男女2人が遺体を浄め、法衣を着せ、手を合掌させ、洗髪、死化粧を施す。静かな声、優美な身のこなしなど、日本の様式美というようなものがそこにあり、思わず写真、ビデオを撮らせていただいた。葬儀社にも議事進行に若い女性は多い。彼らの所作、話し方はただビジネスそのもので、私生活は普段の若者そのものなのだろうが、なぜか、日本の伝統を再認識するようで、今どき、なかなか体験できない世界でもある。


本日のこの映画「おくりびと」はまさしく、ご遺体を浄め、化粧を施して納棺するまでの「納棺師」の物語。


モントリオール映画祭でグランプリをとった。
日本の死者に対する日本の文化を外国が理解したということ。


小林(本木雅弘)の妻役の広末涼子。世の中に嫌われる夫の職業を知り、愕然とする。


社長役の山崎努。みんな忌み嫌うこんな仕事に小林をうまく誘うところは笑いたっぷり。


山形の田舎町、最近はなかなか見られない銭湯の雰囲気。


「死」がテーマでありながら、ユーモアがバランス良く入り、実によくできている。


自分としては、今年度の邦画ナンバーワンかも知れない。

ハリウッドのCG満載の映画ばかりに比べ、本当にコンテンツ豊かな映画というものの良さなど、見直した。

自分が「おくられびと」になるのはいつだろうか。

解説:
 ひょんなことから遺体を棺に納める“納棺師”となった男が、仕事を通して触れた人間模様や上司の影響を受けながら成長していく姿を描いた感動作。監督には『壬生義士伝』の滝田洋二郎があたり、人気放送作家の小山薫堂が初の映画脚本に挑戦。一見近寄りがたい職業、納棺師に焦点を当て、重くなりがちなテーマを軽快なタッチでつづる。キャストには本木雅弘、広末涼子、山崎努ら実力派がそろい、主演の本木がみせる見事な納棺技術に注目。(シネマトゥデイ)

あらすじ:
 楽団の解散でチェロ奏者の夢をあきらめ、故郷の山形に帰ってきた大悟(本木雅弘)は好条件の求人広告を見つける。面接に向かうと社長の佐々木(山崎努)に即採用されるが、業務内容は遺体を棺に収める仕事。当初は戸惑っていた大悟だったが、さまざまな境遇の別れと向き合ううちに、納棺師の仕事に誇りを見いだしてゆく。(シネマトゥデイ)

「おくりびと」美学の極致まで達した死の儀式を見せる美しい映画
 本木雅弘演じる主人公の“納棺師”が死に化粧と納棺の儀式を行う。死に装束の着物の衣ずれの音まで耳に心地よく響く。彼の所作ひとつひとつが指先まで神経が行き届いて、(ポーラ伝統文化振興財団の)記録映画でよく見る“匠の仕事”、美学の極致にまで達している。男の前の職業が指先が器用なチョロ奏者だという仕掛けが効いている。 滝田洋二郎監督と脚本家の小山薫堂がつむぎ出す物語は、死の儀式を執り行う主人公の周りからの“けがれの職業”だという意識をむき出しにする。やがてその儀式なしに、故人との別れは成り立たないことを訴える。最初はショックを受ける広末涼子演じる妻さえも、儀式の凄みに刮目せざるをえなくなる。 納棺師の先輩役の山崎努がフグの白子焼きを、伊丹十三映画のように美味そうに食べるシーンがある。食べることも人間の営みのひとつで、生き物の“死”に始末をつける行為であることをグロテスクなまでに見せつけるのが興味深い。人間は生き物の“死”の上にしか“生”を享受できない。なかなか深い。 この納棺師のひたすら美しい死の儀式は、一度でも親しい者を出棺した過去がある御仁なら、涙なくして見られないだろう。藤沢周平文学でおなじみの山形・庄内地方の移り変わる四季の自然が表情豊かで、美しい映画だ。(佐藤睦雄)(eiga.com)



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